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歯科医師の北見です。
今回は、『歯磨き粉』についてお話させていただきます。
患者さんによく聞かれる質問の一つとして、「どんな歯磨き粉を使った方がいいですか?」「オススメの歯磨き粉はありますか?」というものがあります。
多くの方が、ブラッシング時に歯磨き粉(歯磨剤)をお使いになるかと思いますが、どんな歯磨き粉を使ったら良いのでしょうか。
これを考えるには、まず「ブラッシングの目的は何なのか」を考える必要があります。
一般目線で言うと、「食べかすをとるため」「口臭予防のため」などでしょう。確かにこれらは間違いではないです。
しかし我々専門家からすると、ブラッシングの目的は「プラークを取り除くために行う」ものです。プラークとは歯の表面に形成される「細菌の集合体」です。むし歯も歯周病もお口の中の細菌が引き起こす病気ですから、その原因となるプラークを取り除くことが、最大の目的となるのです。
では、単純にブラッシング時に歯磨き粉を使ったほうが、全く使わなかった場合と比べて、より多くプラークを除去できるのでしょうか?
これについて、いくつかの研究論文があります。複数の研究を分析した結果、『歯磨き粉を使用したことによって、付加的な効果はなかった』ということでした。つまり、『歯磨き粉を使った場合と、使わなかった場合を比較しても、プラーク除去の効果は変わらなかった』ということです。
そうなのです。そもそも歯磨き粉を使うかどうかで、プラークの除去効果は変わりません。プラークは歯ブラシの毛先が直接触れることで除去するしかないのです。これはどんな歯磨き粉を使おうと、例えば高級歯磨き粉であろうと安い歯磨き粉であろうと、大きな違いはありません。
歯磨き粉の成分(例えば殺菌作用の成分など)が入っていれば効果があるのでは?と思われる方もいらっしゃるでしょう。
歯磨き粉の殺菌成分として主に使われる成分は、クロルヘキシジン・塩化セチルピリジニウム(CPC)・イソプロピルメチルフェノール(IPMP)等があげられます。これらの成分は確かに殺菌作用として有効である可能性はあります。しかし信頼のおける研究において、「この成分はブラッシングで使うと効果が高まる!」というものはないようです。
では歯磨き粉って使う意味はないのでしょうか?
歯磨き粉は確かに「プラークの除去」という一点だけを見ると、あまり期待できるものではないでしょう。
しかし、それとは別に「むし歯予防」の観点で言うと、非常に重要な成分があります。それは『フッ素(フッ化物)』です。フッ素は多くの論文で、むし歯予防に対して有効性が認められています。また歯磨き粉に含まれる濃度を適切に使えば、安全性も高いです。つまり、ブラッシング時に歯磨き粉を使う一番の目的は、『フッ素の含まれた歯磨き粉を使うことによる、むし歯予防効果』と言えるでしょう。
現在、日本で売られているの歯磨き粉の80〜90%にはフッ素が含まれています。なので何も考えずに歯磨き粉をドラッグストアやスーパーで購入しても、ほとんどの歯磨き粉にはフッ素が入っています。歯磨き粉に含まれるフッ素の濃度は製品によって違いがあり、日本の法律では1500ppmFが上限です。より高いむし歯予防効果を求める方は、「高濃度フッ素」や「1450ppm」といった表記を参考にすると良いでしょう。(ちなみに私もなるべくフッ素の濃度が高い歯磨き粉を意識して使っています)
タイトルの「良い歯磨き粉を使えば、汚れは落ちやすい?」に対する結論は、科学的に言えば「そうではない」と言えるでしょう。
しかし歯磨き粉は、「爽快感」や「歯磨きのしやすさ」「匂いや味の好み」等、歯磨きのモチベーションを維持する上で大切かと思います。歯磨き粉を選ぶ際は上記の「効果が期待できる成分・効果が定かではない成分の違いを理解し、好みのものを選ぶ」のが、個人的には良いのかなと思ったりします。
今回の内容をまとめると、
今回は触れませんでしたが、歯磨き粉に含まれる「研磨剤」についても考慮すべきことがあります。長くなってしまうので別の機会にお話しできればと思います。
今回は歯磨き粉に対する考え方をお話させていただきました。少しでもご参考になれば幸いです。
2021年10月23日 (土)
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